タイトルはお題サイト「シェイクスピア」様より。
エネルゴンが飲みたくなって深夜一人バーに向かった。
誰もいないと思っていたのに小さく灯る明かりに眉を顰める。
覗き込んで、ちょっと迷いそれから思い切って中に踏み込んだ。
がしん、という金属音にのろのろと顔が上がる。
「サウンド、ウェーブぅ?何してんだぁ?」
べろべろに酔った声に問い掛けられてそのあまりに酔っ払いらしいのに思わず口を緩めた。
当然彼には見えるわけもなく、ふらふら立ち上がると酔っ払い特有の馴れ馴れしさとおぼつかない足取りで近付いてくる。
普段なら避けるか知らないふりで通すのに。
意外にエネルゴン癖が悪いんだな、と新しい一面におかしくなる。
「なぁ、ってば、お、っと」
足を何かに引っかけたのか、無様にすっころぶ。
机の上に上げられていた椅子をいくつか巻き添えにして倒れたサンダークラッカーは顔をしかめて腕をさすり、痛い、と呟く。
その顔に浮かんだ迷子の子供のような表情に思わず屈み込む。
「今日スカイワープと喧嘩しちまったんだ」
呟かれた言葉に顔を覗き込むと口をへの字に曲げて、中途半端に起き上がった姿勢のままこちらを見る。
「凄い怒ってるんだ。でもなんでだったか原因が思い出せねぇんだよ」
放っておけばずぶずぶ暗い思考に沈んでいきそうなサンダークラッカーに見かねて手を差し出す。
ちらっとサウンドウェーブの顔を見上げて、力無く笑うとサンダークラッカーはその手を掴んだ。
「よいしょ、」
自分で口に出して、立ち上がると盛大に溜息をつく。
「くそぉー、飲み直すぞ!」
さっきまでの落ち込みはどこへやら、大声で宣言するとカウンターの中にひらりと身を躍らせた。
「サウンドウェーブも飲みにきたんだろ。なんでも作ってやるぜ、何がいい?」
だんだん、と急かすようにカウンターをたたきながら尋ねる。
適当でいい、と告げるとにんまり笑って「それじゃ特製エネルゴンブレンドを飲ましてやるよ」と言う。
「スタースクリーム達にしか飲ませたことないんだぜ」と少しいたずらっぽい顔で付け加えて、手慣れた様子でいくつかのエネルゴンを引き寄せた。
「ほい」
どすん、と置かれたグラスに息を呑む。
「綺麗だろ」
自慢げに笑って自分は濃度の高いエネルゴンを割もせず無造作に注ぐ。
「綺麗だ」
感心して言うと満足そうに頷く。
「飲めよ、味も悪くないぜ」
勧められたものの、なんだか勿体なくてしばらく眺めて楽しむことにした。
もちろん彼がこれを作り始めたところから、いや本当は彼の姿を認めてから録画しているのだが。
エネルゴンを流し込んで、サンダークラッカーはカウンターから身を乗り出した。
「なぁ、いつもこんな夜遅くにくるのか?」
顔が近いせいかエネルゴンの匂いが辺りに撒き散らされる。
不思議と甘いその匂いに思わず身を引いて頷く。
「サウンドウェーブもバーに来るとは思わなかったなぁ。普通の時間にくりゃいいのに」
と笑い混じりに言う。
「仕事がある」
え、と目を剥いてカウンターを飛び越えてくると、酔っ払っているとはとても思えないほど軽やかに隣に腰を下ろす。
「まだ仕事してたのかよ?信じらんねぇ!」
「やることはたくさんある」
「すげぇなぁ、サウンドウェーブは」
真剣味を帯びた声にその横顔を見つめた。
「いつも何かやってるだろ?メガトロン様の役に立つ事を。俺なんて何もできないもんなー。お前はほんとすげぇよ、いつも思うぜ、もし俺がお前みたいだったら、ってよ」
まぁ無理だけどな、と自嘲気味な笑いを浮かべてエネルゴンを呷る。
「俺はジェットロンの中でも一番影が薄くて一番役立たずだよな。こんな時間まで飲み続けて、喧嘩の原因一つ思い出せやしねぇ」
溜息をついたサンダークラッカーにどう声をかけていいものか迷う。
どうしたら上手く励ましてやれるのか見当もつかなくて、間を持て余して目の前のグラスに手を伸ばす。
湛えられたそれは”サンダークラッカー特製”の名にふさわしい美しいブルーで。
ピンクのエネルゴンを混ぜてどうやったらこんな綺麗な青がでるのだろう?
マスクを外し、それを口に運ぶ。
見た目だけでなく素晴らしく口当たりが良い。
「美味しい」
そういうと心配そうに見守っていた顔がぱっと明るくなった。
「少なくとも一つ取り柄はあるな」
そう言って少し寂しそうな笑いを浮かべるサンダークラッカーに首を振る。
「お前はたくさんいいところがある」
「無理しなくていいぜ」
投げ遣りに言うのに自然と語気が荒くなる。
「メガトロン様も俺もお前を信用している。お前は役立たずではない!」
いつになく激しい口調のサウンドウェーブに気押されたようにサンダークラッカーは頷き、照れたように笑った。
「ありがとよ」
くすぐったそうに頭を掻いて、手を握ったり開いたり落ちつかなげにする。
「…あのー、マスクを…その、してもらえるか?」
どうも落ち着かなくて、とすまなそうに付け加えるサンダークラッカーに笑ってマスクを戻す。
「さっきの言葉は本当だぞ」
「嬉しいよ」
少し酔いの覚めた顔で頷く。
「飲み過ぎちまって、みっともないとこ見せたな」
「気にするな。…喧嘩の理由だが、スカイワープがお前の翼にオイル混じりの排気を吹き掛けたのが原因だ」
「…っあぁ、そうだった!あいつがわりぃんじゃねぇか!何で俺が気に病まなきゃなんねぇんだ!」
くそっ、と一通り悪態をついてすっきりした顔でサンダークラッカーは笑った。
「お前ってわけわかんねぇけどいいやつだな」
微妙に失礼な台詞を残してサンダークラッカーは立ち上がった。
立ち去ると思いきやそのまま動きを止めたので不思議に思い見上げると、恥ずかしそうに咳払いして
「気に入ったならまた作ってやるよ」
とグラスを指差す。
「仕事が終わった時たまには一杯やろうぜ?」
な、と笑うのにこちらもつられて笑いを浮かべる。
が、それは表に出ないのを思いだして口に出す。
「また作ってくれ」
「ん、じゃおやすみ」
小さくなっていく足音を聞きながら少し中身の残ったグラスに目をやる。
不確かな約束をサンダークラッカーは忘れずにいるだろうか?
憶えていてくれればいいが、といつかの日のことを考えて笑って残った青を飲み干した。
*2008/10/05 モバイル版2000hit感謝SS